溢れ出すインターフェイス
プロダクトデザインにおける「サイズ」というパラメータは、とくにUIにおいてユーザエクスペリエンスというものに強く影響を与えるのです。そうすると、開発者のアイデアが溢れ出す。
Alice for the iPod
via アリスが電子書籍の未来を感じさせてくれる「Alice for the iPad」 | iPadWalker.NET
iPhoneがただ「大きくなっただけ」で、ユーザの経験の質と、そこへ向けた開発者のアイデアのかたちが、こんなにも様変わりするということ。本当に様変わりしたかどうかという根拠は、iPad後の「iPad向けアプリ」が続々とリリースされ、それが「実は技術的にはiPhoneでもできた」という事実にある。そうしたアプリの登場がなぜiPadの発表を待たなければならなかったかというと、iPhoneのインターフェイスの「サイズ」が重大な「制約」になっているからだ。
制約という概念は、アートとデザインと区別するキーワードでもあり、デザインの質・内容を方向づけるものでもある。つまり、デザインにおける「サイズの制約」は、量的な制約ではなく「質的な制約」であり、心理学的概念を使えば、ユーザや開発者の「行動」を変容させるものである。デザインにおける「制約」とは単に制限されているということを意味することよりも、その仕様を決定=方向付けるための「枠組み」という側面が大きい。iPhone OSという同一のプラットフォームにおいても、ユーザの利用目的や操作方法といった経験の内容、そしてそこへ向けられたコントローラやレイアウトといったインターフェース設計、そしてコンテンツの種類や提示方法といった開発者の枠組みが、異なるサイズの「枠組み」を持つiPhoneとiPadの間に不連続的な違いをもたらすということになる。
たとえば、AutodeskがiPhoneアプリとして出していたSketchbook ProのiPad版は、サイズが大きいことで確実にユーザの操作感に影響を与え、その利用シーンを「拡張」している。(拡大、ではない)
あるいは、KORGのiELECTRIBEは、iPadのサイズでなければ開発者がELECTRIBE実機のインターフェイスをそのまま再現しようとはしなかっただろう。
もっとも、Appleが最もユーザに近いところに焦点を絞って提示した「電子書籍」というスタイルは、(Kindleに先を越されてはいたものの)まさにユーザの経験を全く異なる形で提供することになる。これは、もちろんiPhone OSというプラットフォームだが、iPhoneではなくiPadのためにリリースされた。そういう画期的なイノベーションの中で、もう少し時間がかかると思っていた出版業界は右往左往していたりする。
そういうところで実は、電子書籍というスタイルがすでに当然のものとなっている分野がある。それが「学術論文」という世界。これはウェブ上の膨大な学術論文データベースという形で世界中で提供されている。(e.g., PubMed; Science Direct; CiNii(日本))こうした場所では、個々の論文が個別のPDFファイルとして提供されており、利用者は読みたい論文をそれぞれダウンロードして利用することができる。そしてオープンプラットフォームで書誌情報が公開されることで、たとえばGoogle Scholarといった検索エンジンによって垣根なく利用することが出来る。そしてもちろん、そういったデータベースの利用とDLしたPDFファイルを管理するためのソフトウェアというものも存在し、PapersというMac用のソフトは、いくつかのデータベース検索とダウンロードしたPDF管理を統合的に行なうことができる「iTunesにそっくり」のインターフェイスを備えている。そして、自分のPDFライブラリをiPhoneと同期させるという機能さえ持っている。そこでiPadの発表があったとき、待ち望んだとばかりにPapersのユーザフォーラムが湧いたのは言うまでもない。

(via mekentosj.com)
それとまさに同じスタイルを持っているのが「楽譜」という世界。こちらはそれほどデータベース化されているわけではなく、オープンな環境でもないが、それでもかなりの楽譜PDFファイルがウェブ上で公開あるいは販売されている。(e.g., Free Hand Music; Free Sheetmusic Library)ここでも、iPadが登場してすぐにpiaScore(旧PadScore)というコンセプトが立ち上がっている。(実はこれはまさにiPadのようなタッチデバイス(楽譜専用という意味ではKindle的だが)を備えたMusic Padという製品が既に販売されている。)

(via PiaScore)
まあ、「論文」と「楽譜」というニッチな分野でiPadによって恩恵を受けるのは「学者」と「音楽家」といった非一般的なカテゴリーの人種で、それが自分だという話だったりもするが。
といったところで、iPadというiPhoneをそのまま大きくしたインターフェイスは、これまでになかったいろいろなアイデアを生み出しているのです。
バイト先で電子書籍のプロジェクトが立ち上がりそうなので、電子書籍とかEPUBとかの研究ついでのiPadの解題。
あとは、ハードウェア的なところから見ると、iPadというかなり洗練された「タッチデバイス」が$499とかで手に入るのは、開発者や研究者からみるとすごいお手頃?SDKアカウント持ってれば、自分で開発したアプリを入れたりできるんだったかな。ということは、心理学実験用のタッチインターフェイスとしてかなり有望かも。(そのまえにやることがいっぱいあるが)
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